運命は変えられるのか
(箱庭で幸せな夢をの続き)
〜 名も無い寂れた地にて 〜
「開いたぞ!!!」
「封印は解かれた!」
「素晴らしい!我らが主のお目覚めじゃ!!」
「これでこの世界は我らのもの!」
「さあ主よ!我らに力をーー」
???:煩いのぅ…我の封印を解くは貴様らのような愚物にとっては当たり前のこと。それなのに、我に恩を着せようとしたか。なんとおこがましい。声も耳障りじゃ。さっさと往ね!
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ふむ…我が封印されて既に数百年か。どうりで暇だったわけじゃな。こやつらを屠っても、耳障りな音出すだけで全く面白うなかった。もっと面白いものは…そうじゃ!我が封印されておる間に、下界の愚物共も少しは成長したであろう!少しは我を楽しませてくれるやも知れぬ。
行ってみるとしようかの。
その魔の者が去った後には、血に塗れた肉塊が大量に落ちていた。
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〜 side A 〜
目を覚ましたのは、真っ暗な空間だった。
…ここどこだよ。
とりあえず怒鳴ってみようかと息を吸い込んだとき、
「騒がしいのぅ、愚物の分際で。」
とまぁなんとも偉そうな声がした。
そいつが言うには、
私はわさ子に殺されたらしい。
信じられなくて
「嘘だ!!!」と怒鳴った時も、
奴は平然としていた。
実際下界?の私の様子も見せられて信じるしかなくなった私は、思わずその場にへたりこんでしまった。奴は言う。
「我がお前の望む限り、
あの女と出会う日まで時を戻してやろう」
と。対価もいらないらしい。
二人でhappy endを得たかったと思っていた私は、一も二もなく食いついた。
わさ子、まってて。
何回でも繰り返してやる、
happy endを二人で迎えよう!
過去に戻るためだという、この闇の中をどこまでも落ちていく感覚は好きにはなれそうにないけれど、それでもこの戻った先にあるであろうわさ子の笑顔を想像して私は意気揚々としていた。
後ろで、
「せいぜい我を楽しませよ、愚物」
という声が聞こえた気がした。
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この時の私は、甘かったのだ。
歴史が変わるなんて、なかなかのことでは無理なのに。
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もう、何回繰り返したろう。
私たちは、もう何度死んだんだろう。
私は何度、わさ子の死体を見たんだろう。
私は何度、わさ子を泣かせたんだろう。
傷付けてしまったんだろう。
もう、疲れた。
希望なんてなかった、
happy endなんてなかったんだ。
私たちにあるのはきっと、
bad endだけなんだ。
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それなら。
それなら私は、わさ子に幸せになってほしい。
二人のうちどちらかしかhappy endを迎えられないのなら私はわさ子にそれをあげる。
だってさ、私たち大親友じゃん。
それじゃあ、そろそろ行こう。
このループに、終止符を。
毎度恒例で慣れてしまった落ちていく感覚に、
私は疲れて重くなった体を委ねて目を閉じた。
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〜side W〜
もしも、親友がタイムリープしていたとしたら。何度も何度も同じ日を繰り返して、
happy endを探し続けていたとしたら。
…あなたは、どうしますか?
私にあお子の想い、今までの何十回にも及ぶループの記憶が流れ込んできたのは、二回目が終わった時だった。理由はわからない。
記憶が流れ込んで初めての回は、ループで私に何度殺されても同じように笑って接してくれるあお子への罪悪感で、あっさり自殺してしまった。
けれど、その後に知ったあお子の様子で、2回目は生き抜こうと決めた。それなのに。
その2回目は、私を庇って代わりにいじめられていたあお子がエスカレートしたそれの延長線でいじめっ子たちに殺されてしまった。あお子はさっき、「今回を最後」と決めていた。
もう諦めてしまった顔だった。
だけど、私はまだ諦めてなかった。
諦めたくなんかなかった。
大好きなあお子に死んでほしくなかったし、
もちろん私自身も死にたくなんかない。
運命だからって泣き寝入りなんかしたくなかった。たかだか運命なぞで私たちの絆を切ることはできないのだと、あお子の足掻きを嗤って見ているあいつにはっきり教えてやろうと思った。
あお子が過去の現実に戻ったのを確認し、私もあお子の落ちた穴へ飛び込んだ。
今回は一人じゃない。
二人で協力できれば、きっと。
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〜side A〜
目覚ましの音で目を覚ました。
もう幾度となく聞いてきた音。
もう遠い昔のように感じる、
「1回目の今日」の数日後に壊れてしまったはずの、お気に入りの目覚まし時計。
だけど、毎度地獄の始まりを告げるそれは、
今となっては忌まわしい。呑気に朝を歌う音を早々に止め、私は行きたくもない学校へ行くための準備を始めた。
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〜side W〜
爺やの声で目を覚ます。毎ループ同じで、そろそろ飽きた。バリエーションが欲しいと言ってやっても良いかもしれないが、いかんせん毎度同じ日を繰り返しているのだ。
言っても意味ないだろう。少々うんざりしつつも、私はもう着慣れてしまった新品の制服に身を包み、あお子と出会うことになる転校先の学校へと向かった。
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〜side A〜
もう何度も聞いた、浮かれ話。
何度も見た、日直が消し忘れて帰ったのであろう汚れた黒板。
何度も自慢された、友人の新しい筆箱。
そんな何もかもが面倒で。
疲れた私には、返事すらも億劫で。
そんな中、何度もきいた担任の
「転入生がいます」
という声だけが、やけにはっきりときこえた。
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〜side W〜
正直「見慣れた」どころではない新担任と対面し、初めましてなフリをするのはとても疲れた。しかも、なぜかこの担任、毎ループ話が同じで長く、更にはつまらないときている。
教師に向いてない先生だと、つくづく思う。
…なんて話はどうでもいい!
今私は、2年B組ー私たちのクラスーの前に居る。先生に促されて教室に足を踏み入れた私は教室を見回し、わざとあお子と目を合わせた。
私たちなら、これだけで通じる。
目を合わせられたあお子は
目を大きく見開いていた。
そして、微かに頷いてみせてくれた。
それだけで、意思疎通が確認できる。
だって私たち、親友だからね!
私は、私たちは、足掻く。
happy end以外は認めない。
絶対に、「二人で」幸せを掴むんだ。
もう一度心に決め、
私はあお子の方へと力強く一歩踏み出した。
Fin.